「令和3年2月5日付防人育第1450号,総行住第12号 自衛官又は自衛官候補生の募集事務に関する資料の提出について(通知)」について
弁護士 井下 顕
1 前提として本通知は,「令和2年地方分権改革に関する提案募集提案事項」として,大村市および合志市の提案に対する応答として発出されている。
→大村市は「住民基本台帳法又は自衛隊法に明確に規定することを求めた」
→合志市は「住基台帳法上の制約はないものと解されるが,対外的な説明の観点から通知等によりその旨明確化することを求めた」
→大村市の提案には答えていない。
→合志市の提案には誤導もしくは前提に問題あり。
2 地方自治法245条の4第1項に基づく技術的助言とは何か
→条文「各大臣又は都道府県知事その他の都道府県の執行機関は,その担任する事務に関し,普通地方公共団体に対し,普通地方公共団体の事務の運営その他の事項について適切と認める技術的な助言若しくは勧告をし,又は当該助言若しくは勧告をするため若しくは普通地方公共団体の事務の適正な処理に関する情報を提供するため必要な資料の提出を求めることができる。」
→「担任する事務」に関し,必要な技術的助言をすることができる。
→自衛隊施行「令」はさておき,自衛隊「法」という法の解釈は裁判所の職責であって行政部門の「担任する事務」ではない。
3 自衛隊法97条1項,自衛隊法施行令120条は,防衛大臣が市区町村長に対し,4情報の資料提出を求める根拠になるか
→条文「第97条 都道府県知事及び市町村長は,政令で定めるところにより,自衛官及び自衛官候補生の募集に関する事務の一部を行う。」「第120条 防衛大臣は,自衛官又は自衛官候補生の募集に関し必要があると認めるときは,都道府県知事又は市町村長に対し,必要な報告又は資料の提出を求めることができる。」
→自衛官等募集事務の遂行のために,防衛大臣が都道府県知事および市町村長に対し,募集に対する応募者数の見通し,応募年齢層の概数等に関する報告および県勢統計等の資料提出を求め,募集事務を円滑に行うための判断材料を求めるもの
→個別住民の4情報(住所・氏名・年齢・性別)を求める根拠にはならない。
4 上記資料として,市区町村長が住基台帳の一部の写しを用いることに特段の問題はないのか
→「住基台帳法第3 市町村長は,常に,住民基本台帳を整備し,住民に関する正確な記録が行われるように努めるとともに,住民に関する記録の管理が適正に行われるように必要な措置を講ずるよう努めなければならない。
同条第4項 何人も,第十一条第一項に規定する住民基本台帳の一部の写しの閲覧又は第十二条第一項に規定する住民票の写し若しくは住民票記載事項証明書,第十五条の四第一項に規定する除票の写し若しくは除票記載事項証明書,第二十条第一項に規定する戸籍の附票の写し,第二十一条の三第一項に規定する戸籍の附票の除票の写しその他のこの法律の規定により交付される書類の交付により知り得た事項を使用するにあたって,個人の基本的人権を尊重するよう努めなければならない。」
→市区町村長は,住基台帳法上の住民個々人の個人情報について厳格な管理責任を負っており,しかも個人情報は憲法上の人権であるから,プライバシー侵害にならないよう適切に配慮,管理することが求められる。
→特段の問題あり。
5 「住基台帳の一部の写し」と言っており,電子データではないこと
→もっとも,本通知は「写し」について言及するも,「電子データ」を交付して良いとはしていない。
以 上
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