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執筆者の写真fukmeibo

【寄稿】筑後市、自衛隊への名簿提供を取りやめ(意思表示の会)

 筑後市は、これまで行ってきた自衛隊への名簿提供を取りやめ、住民基本台帳の閲覧に戻すと市の対応を変更しました。同市は2011年から自衛隊に対して自衛隊入隊適齢者(18歳と22歳)の名簿を提供していましたが、市民や議員から、「市民のプライバシーの侵害になる」との指摘を受け、内部の会議で審議して検討した結果、2021年6月から名簿提供を取りやめるとの決定をしました。


 どのような経過でこのことが実現したのかを振り返ります。



意思表示の会等が筑後市と懇談


 「戦争法の廃止へ筑後地域でも意思表示を!」(略称・意思表示の会)は、ちっご九条の会、久留米平和委員会と協力して、自衛隊への名簿提供問題について筑後市に懇談を申し入れ、2020年4月に筑後市役所で防災安全課の課長、係長と懇談しました。


 意思表示の会側は次のような発言をしました。「筑後市からのアンケートの回答には、情報提供の根拠は、『自衛隊法第97条第1項及び自衛隊法施行令第120条』としている。ところで、2003年の国会論議で、政府参考人は、『市町村長にたいしまして適齢者情報の提供を依頼しているところでありまして、あくまで依頼でございます』、石破国務大臣は、『市町村は法定受託事務としてこれを行っておるわけでございます。私どもが依頼をしても、こたえる義務というのは必ずしもございません』と答えている」。


 これに対して筑後市側は、次のように返答しました。「自衛隊法97条『都道府県知事及び市町村長は、政令で定めるところにより、自衛官及び自衛官候補生の募集に関する事務の一部を行う』となっており、制度を変更した当時の担当者は紙媒体での情報提供は当然のことだと理解したのだと思う。皆さんの意見を聞いたので、関係者と意見交換をしてみる。現時点では即答できない。住民基本台帳の閲覧よりも、該当者にかぎって情報を提供する方がプライバシーの保護ということから言えば、限定されているように思う」。


 懇談の最後に意思表示の会側は次のような要望を述べました。「個人情報の保護はとても大切なことである。単に法令に条文があるからというだけで、適齢者の情報を提供するのは問題である。我々の意見にも耳を傾けてもらい、審議会に諮問してきちんとした結論を出すべきだ」。


 懇談の後、参加者は同席した貝田義博市議に名簿提供問題について市議会で追及するよう要請しました。



貝田議員が市議会で質問


貝田議員は2020年の9月議会で、自衛隊への情報提供の経緯について質問し、個人情報保護の観点から問題を提起し、再検討を要請しました。市側は、「2011年当時、筑後市は閲覧方式であったが、近隣の八女市、広川町は紙による情報提供であったことから、紙による情報提供に変更した。自衛隊には大規模災害時の復旧作業や人命救助など支援を受けているので、協力したいという意味もあった」と回答しました。


再度質問に立った貝田議員は、情報保護審査会に諮らなかったのはなぜか、個人情報が提供されたことを本人は知りうるのか、提供された情報に有効期限はあるのか、について質しました。市側の回答は、「法令に基づいた要請であると解釈したので、審議会には諮っていない。本人の同意も必要ないと解釈した」と回答しました。


貝田議員の再三にわたる要請に対して、市長は、「行政審議会に諮る方向で検討したい」と答弁しました。【資料1参照】


*貝田議員の議会質問は次のサイトで視聴できます。

(「筑後市議会」⇒「インターネット中継」⇒「貝田義博」と進む。)



行政審議会での議論


 市長の要請を受けて筑後市行政審議会が2020年12月、2021年5月に開催されました。構成は3人の委員(学識経験者、弁護士等)と関係者である防災安全課課長、市民課課長でした。


委員から出された意見の概要は次のとおりです。


□名簿という形で自衛隊へ提供してきた個人情報は、いずれも住民基本台帳法による閲覧によって取得できる。

□名簿の提出は、単に自衛隊に対し便宜を図る行為にほかならない。

□名簿がなければ自衛官等募集事務を遂行できなくなるような特段の事情は見受けられない。

□本来地方公共団体は、個人情報を慎重に取り扱い、個人の権利利益を保護すべき立場である。


 以上の意見を踏まえ、個人情報を自衛隊へ提供することは妥当とはいえないという結論に至りました。審議内容は会長がまとめることになりました。【資料2、資料3参照



行政審議会会長がまとめた意見


 行政審議会会長は2021年6月に市長宛に「個人情報の取扱いに係る意見について」と題する答申を提出しました。次がその内容です。


 名薄という形で自衛隊へ提供してきた個人情報は、いずれも住民基本台帳法第11条第1項の規定による閲覧により取得できることからすると、名簿の提出は単に自衛隊に対し便宜を図る行為にほかならず、名簿がなければ自衛官等募集事務を遂行できなくなるような特段の事情も見受けられない。本来地方公共団体は、個人情報を慎重に取り扱い、個人の権利利益を保護すべき立場であるので、今後もこのような形で個人情報を自衛隊へ提供することは妥当とはいえない。


 以上が審査会としての意見であるが、仮に今後も名簿の提出を継続しようとするのであれば、個人情報を提供することを本人に対しあらかじめ文書で通知し、本人から申し出があれば提出名簿から除外するとともに、自衛隊に対しては使用後の名簿を確実に処分するよう誓約させ、その処分には市の職員が立ち会うべきであることを付言する。【資料4参照】



筑後市、自衛隊への名簿提出を取りやめ


 行政審議会の意見は実施機関(市長)を拘束するものではありませんが、筑後市は審議会の意見を踏まえ、2021年6月から自衛隊への名簿提出を取りやめました。


(記・意思表示の会 貫橋宣夫、2021年7月19日)



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